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愛知県労働協会主催のセミナー「採用・配転・出向のいろは ~裁判例を踏まえた失敗しない実務対応~」を受講しました。

2023/06/29

 愛知県知多地域、西三河碧海地域、名古屋市南部地域を営業区域としています、

特定社会保険労務士の岡戸久敏と申します。

 令和5年6月28日(水)、愛知県労働協会が主催するセミナー「採用・配転・出向のいろは ~裁判例を踏まえた失敗しない実務対応~」をZoomで受講しました。

 講師は、杜若経営法律事務所所属の 梅本茉里子 弁護士でした。

 採用・配転・出向は、該当する労働者にとっては、生活が一変してしまうこともある大きな節目となる出来事です。会社にとって、人材が必要だから新卒者や中途者を採用し、人事上必要だから配転(異動)をし、出向してもらうはずです。なのに、残念ながらトラブルが絶えません。

 うまく採用・配転・出向ができれば、会社はますます発展していくでしょうし、労働者も幸せに生活していけると思います。

 不幸な採用・配転・出向が起きないよう、また、不幸が起きてしまった時の対処の仕方について、講義がありました。

1 採用の実務対応

(1)採用内定の実務対応

  ○ 内々定・内定の法的性質

   ・内々定では、労働契約は成立していません。

   ・内定では、企業は内定通知書を交付し、内定者から承諾書などの書類の提出を受けています。 

    「始期付解約権留保付労働契約」が成立します。

  ○ 始期付解約権留保付労働契約

   ・始期付とは、労働契約の開始日(入社日)が決まっていることをいいます。

   ・解約権留保付とは、入社までの間に一定の取消事由が発生した場合には、解約(内定取り消し)ができることをいいます。

   ・内定取消ができるのは、

   「①採用内定当時には知ることができず、または知ることが期待できないような事実」であって、

   「②客観的に合理的と認められた社会通念上相当として是認することができるもの」に限られています。

  ○ 内定取消をする際の注意点

   ・内定前(内々定時)に調査すれば容易に判明した事実を理由にして、一方的に内定取消はできません。

   ・この対応策としては、一方的に内定取消を行うのではなく、合意での解約を目指します。

   ・事前に十分な説明を尽くして、本員の納得(合意)を得る努力が重要です。

     ① 入社が困難になったと判断した時点で、できる限り早急に本人に通知します。

       入社直前(例:2週間前)での通知では、本人の納得も得られない可能性が大です。

       また、裁判での心証は悪くなります。

     ② 内定取消に至った理由を、できる限り具体的に説明します。

       資料(経営悪化の場合は経営状況の資料)も提示して説明します。

     ③ 金銭的な補償を提示します。(相場感しては、少なくとも3か月分の給料額)

  ○ 内定者を研修に参加させる際の注意点

   ・内定者向けの研修に、内定者を強制参加させることはできない。

   ・参加しなかったことを理由に、

    内定取消や入社後の人事評価で低い評価をするといった行為はしてはいけません。

   ・研修に参加した内定者には、賃金を支払った方が無難(最低賃金以上)です。

(2)試用期間の実務対応

  ○ 試用期間中の注意点

   ・試用期間中は、労働者の適性や能力を見極めるための期間です。

    その見極め中の解雇について、裁判所は無期雇用の労働者の解雇以上に厳しく判断します。

    ほぼ不可能だと考えてもよいです。

   ・試用期間中であっても解雇は、「客観的に合理的な理由」と、

    解雇が「社会通念上相当」といえるだけの事情がなければなりません。

   ・試用期間中は、解約権が留保された労働契約の状態です。

   ・試用期間、かつ、採用から2週間以内に解雇する場合には、解雇予告手当は不要となります。

                            (労働基準法第21条第4号)

    ただ、解雇予告手当の支払が不要となるだけであって、解雇が有効になるというわけではありません。

  ○ 試用期間中に能力不足が発覚した場合の対応

   ・試用期間が満了したので、本採用を拒否したいとしても、一定のハードルがあります。

   ・特に、能力不足を理由にした本採用の拒否は、裁判になった際に能力不足を証拠に基づいて証明することが難しいです。よりハードルが高くなります。

   ・裁判所は、会社が労働者にきちんと注意指導を行い、改善の機会を与えたかを厳しく審査します。問題点については、具体的に5W1Hを使って記録に残し、注意指導を続ける必要があります。

    また、注意指導は、問題が起きたその都度(近接日に)行います。

   ・最初から本採用の拒否を目指すのではなく、まずは退職勧奨を行い、合意による退職を目指すべきです。すぐに、本採用拒否を決めてはいけません。

   ・退職勧奨は、試用期間満了日のギリギリではなく、余裕をもって行います。

    試用期間が満了してしまうと、本採用せざるを得なくなります。

   ・試用期間を延長して、延長期間内に注意指導と退職勧奨を行うという手もあります。

    この場合、就業規則に、試用期間の延長ができる旨の規定がない場合には、試用期間の延長はできません。本人が試用期間の延長に同意していても、延長してはいけません。

    就業規則に、延長の規定があるか否かです。

2 配置転換(配転)の実務対応

 ○ 配転命令の法的根拠

  ・使用者は、労働契約の範囲内で労務指揮権を行使できます。

  ・配置転換命令も、この労務指揮権の行使の一環であるとされています。

   使用者は、労働契約の範囲内での配置転換であれば、労働者の同意を得ることなく、一方的に配置転換を命じることができます。

   逆に、労働契約において予定された範囲外での配置転換については、一方的に命じることはできません。

 ○ 配転命令の有効性の判断要素

  ① 配転命令権の存否

   ・就業規則に、会社が配置転換を命じることができる旨の規定が、記載されていなければなりません。

   ・就業規則で配置転換を命じることがあると規定されていても、個別の労働契約で勤務場所や職種を限定するとの合意は可能です。

  ② 配転命令権の濫用の有無

    以下の場合は、配転命令は無効となります。

   ア 配置転換を行う”業務上の必要性がない”場合

    ・労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など、企業の合理的な運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在は肯定される。

   イ 配転命令に”不当な動機・目的がある”場合

    ・①退職に追い込む目的、②内部通報を行った従業員に対する制裁の目的、③労働組合に加入した従業員に対する嫌がらせの目的などは、不当な動機・目的の典型例です。

    ・配転命令のタイミングは、不当な動機・目的の認定では重要なポイントです。

   ウ 配転命令によって、労働者に”通常甘受すべき程度を著しく超える不利益”が生じる場合

    ・この場合の「不利益」とは、一般的に、「経済上」、「生活上」の不利益を指します。

    ・育児介護休業法第26条で、

     「事業主は、その雇用する労働者の配置転換で“就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合”において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、“当該労働者の「子の養育」又は「家族の介護」の状況に配慮”しなければならない。」

     と規定されています。

    ・育児介護休業法第26条の「配慮」とは、

     裁判所は「その就業の場所の変更により就業しつつ「その子の養育」又は「家族の介護」を行うことが困難となることとなる労働者に対しては、これを“避けることができるのであれば避け”、避けられない場合には、より“負担が軽減される”措置をするように求めるものである。」と

     いっています。

    ・対応策としては、配転命令を命じる前に、具体的に何が介護の支障になるおそれがあると考えているか、聞き取りを行います。

     また、同じ事業所内で従前の業務以外の業務で、配置可能な業務がないかを検討すべきです。

    ・近年は、配転命令によって生じる「キャリア形成上の不利益」を踏まえ、これまでの職歴とは異なる業務に配転する命令を権利濫用にあたると、裁判所は判断するようになってきました。

    ・入社後一貫して特定の業務に就いていた場合や、中途採用の場合には入社前に一定年数、特定の業務の経験があることを評価して採用しているような場合には、特定の業務分野でキャリア形成をしていくことへの期待が生じています。

    ・内示の時点で、従業員から配転命令には応じられない旨の意見があった場合、他の部署への配転の可能性を検討して、話し合いを行い、従業員の理解を得る努力を行う必要があります。

3 出向の実務対応

 ○ 出向の定義

  ・労働者が雇用先の会社(出向元)における従業員の地位を有したまま、他の会社(出向先)において相当期間、出向先の業務に従事することをいいます。

  ・就業規則において、「会社は、業務上の必要性に基づいて、出向を命じる場合がある。」といった規定を定めておく必要があります。

  ・加えて、労働協約や労使協定によって、出向先での賃金、労働条件、出向期間等について定めておくことが望ましい。

  ・出向契約(出向元と出向先との契約)では、出向期間、どちらの就業規則を適用するか、賃金の負担、社会保険の取扱いなどについて定めておきます。

お客様から相談があった際には、今回のセミナーでの学びも活かして、よりよい提案ができたらと考えています。

 最後に、いつも思うことですが、質の高い話をお聴きし、納得感が得られますと、心が洗われ、とてもうれしい気持ちになります。よいセミナーでした。ありがとうございます。

 よろしければ、私のホームページ(愛知県知多・碧海・名古屋市南部の社会保険労務士 – おかど社会保険労務士事務所 (sr-hokado.jp) )もご覧ください。

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