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愛知県労働協会主催のセミナー「類型別問題社員への実務対応 ~実践できる揉めないアプローチ~」を受講しました。

2023/06/23

 愛知県知多地域、西三河碧海地域、名古屋市南部地域を営業区域としています、

特定社会保険労務士の岡戸久敏と申します。

 令和5年6月21日(水)、愛知県労働協会が主催するセミナー「類型別問題社員への実務対応~実践できる揉めないアプローチ~」をZoomで受講しました。

 講師は、杜若経営法律事務所所属の 井山貴裕 弁護士でした。

 問題社員への対応は、その社員に対応する会社や上司は、手間がかかるうえにストレスがかかってきます。

 だから、かかわること自体が時間の無駄、めんどうくさいと考えて、放置してしまうこともあるかと思います。

 一方、対応しても、その場限りの付け焼き刃な対応を繰り返しても、事態は好転していきません。

 また、間違った対応をしていくと、事態を悪化させることもあります。

 では、どういった対応をしていけばいいのか。

 問題社員といっても、タイプは様々で、それぞれで対応の仕方は異なっています。

 対応ごとの正しい対応の仕方を知ることで、会社と社員が揉めない解決ができる可能性が高まります。

 このセミナーでは、問題社員を4つのタイプに分けて、説明がありました。

タイプ1 能力不足の社員

 ○ いきなり解雇をしてしまう。(誤った対応)

  ・裁判では、解雇は「よほどの事情」がない限り無効と判断されます。

  ・裁判官は、「改善させる機会を与えましたか?」、「その具体的な証拠はありますか」と聞いてきます。

  ・会社が解雇事案の裁判で負けてしまうと、

    ①対象社員が復職する、

    ②紛争期間中の賃金を支払わなければならない(無効な解雇だったから賃金を支払え)、

    ③レピュテーションリスク(SNSでの悪い評判の拡散、それによる採用困難)

   というリスクがあります。

 ○ 問題社員のミスを具体的に特定

  ・ミスを抽象的にしか把握していないのは(コミュニケーション不足、計算間違いなど)、誤りです。

  ・ミスを具体的な事実として捉え、会社は社員に何を求めるのかを明確にします。

   目標を明確にします。

 ○ 指導の仕方を具体的に決めます。(例)

  ・毎日、日報を提出させます。

  ・定期的(毎週金曜日、2週間に1回 など)に面談します。

  ・指導担当者を決めます。

  ・そして、指導開始時に、会社が求めるレベルを明確にします。

 ○ 日報での指導方法

  ・注意指導書など書面を用いて、問題点を具体的に説明する。(指導する理由)

   日報で、実際のレベルを自覚してもらいます。

  ・注意指導書の内容は、行動を改善するための方策であることを伝えます。(目的)

  ・日報作成のルールと、提出先の確認をします。

  ・指導のコメントは、具体的に記載します。

     ・注意は具体的事実に基づいて、言語化したうえで行います。

       「態度が悪い」、「ルールを守らない」、

      「社会人の常識に従った行動をすること」といったコメントは、

       第三者(裁判官)が読んだ時に、その情景が浮かんできません。

        動きが見えてくる、発言が書かれているという風に、

       5W1Hを使って具体的にコメントします。  

 ・会社内で活躍できるように指導します。

    ・重箱の隅をつつくような指導は、第三者(裁判官)が見ると、

    会社はこの社員をやめさせようとしているとわかってしまいます。

     心証を悪くします。

    ・会社内で活躍するためには、どうすればいいかという視点でコメントします。

    ・改善できた点や、成果が出ている点については、コメントでほめることも重要です。

    ・会社(指導担当者)の根気強さも試されています。

     短くとも2、3か月間がんばりましょう。

○ 社員から「退職」の申し出(社員からの合意退職の申し込み)

 ・指導についていけず、能力があがらないとなると、その会社にいる理由がなくなってしまい、退職を選択することもあります。

 ・その場合、社員から「退職届」が提出されます。

  会社は、すみやかに退職の申し出を承諾することが大切です。

  なぜなら、会社の承諾の意思表示が社員に到達するまでは、社員は退職の申し出を撤回できてしまうためです。

○ 会社から「退職勧奨」のお誘い

 ・退職勧奨は、雇用契約を「合意」で解消することのお誘いです。

 ・「合意」が成立した場合には、退職の効力が生じるが解雇権濫用法理の適用はなくなります。

 ・つまり、正しく退職勧奨を行えば、紛争リスク、無効リスク、レピュテーションリスクを回避でき、雇用契約解消の結果を得られます。

 ・退職勧奨を実施する際の注意点

     ・退職勧奨を行う理由、退職勧奨に応じる条件(金銭等)を端的に伝えます。

      その場合の金銭は、解雇紛争を避けるための手切れ金の扱いです。

     ・仕事の話など、無用な議論は行いません。

     ・30分間(長くても1時間)でやりきります。

     ・会社側は、2名で対応するのがよいです。

      1名だと揉めた時に、とりなす者がいません。

      多すぎると、退職しろと圧力を受けたと言われかねません。

     ・必ず録音します。社員の承諾を得ます。社員が録音してもOKといいます。

      後で、「解雇と言われた」というトラブルが生じた時の対策です。

     ・回答日を、具体的に設定します。

      回答日は、家族と相談できるよう、休日を1回挟むように設定します。

      「この条件に応じられる場合は、○月○日までにご回答ください。

       この日以降は、提示した条件は維持できなくなりますので、

       あらかじめご了承ください。」などと話しておきます。(書面がよいです。)

     ・退職勧奨に応じる場合の合意書を交付します。

 ○ 配置転換

  ・配置転換とは、同一会社内で職種や職務内容、あるいは就業場所(勤務地)などを

  長期間にわたって変更することをいいます。

  ・契約上の根拠(職種限定の合意がない。勤務地限定の合意がない。)があることを前提として、

  業務上の必要性と労働者が受ける不利益の程度を比較して、有効性を検討します。

  ・指導を継続されることよりも、配置転換に難色を示し、退職の申し出がある場合もあります。

タイプ2 業務指示を聞かない社員

 ○ 誤った対応

  ・いきなり解雇は最悪です。解雇のリスクは、タイプ1の能力不足社員と同じです。

  ・「対応が面倒なので、仕事を割り振らない。」は、“過小な要求”というパワハラの類型に該当する可能性あります。

  ・また、本人は楽をしてお金をもらえる状況になり、改善の意欲も、退職する気もなくなってしまいます。

 ○ 記録に残る形で、明確な業務指示を出します。

  ・「指示」であるのか、「断れるお願い」であるのかが、判然としない内容の連絡が、実務では多いです。

  ・「お願い」であると、従わなくても業務指示違反にはならない。

  ・具体的に、何を、いつまでに行うかを明確にします。

  ・指示は、まずは口頭で行ってもよいが、書面、メール等の文字の記録に残る形で行うことがとても重要です。

 ○ 過大な指示になっていないか。

  ・業務量が多すぎると、“過大な要求”というパワハラの類型に該当する可能性が出てきます。

  ・どのような仕事をさせるかを判断するにあたっては、他の社員がこなしている業務も参照して決定します。

  ・業務量の把握は、後で未払い残業代請求の可能性もあるため重要です。

 ○ 懲戒処分を行う場合

  ・いきなり、懲戒処分は行いません。

   まずは、注意、指導書から行います。

  ・弁明の機会を与えた上で、懲戒処分を行います。

  ・最初の処分は、比較的軽めの処分(けん責、戒告)から行い、徐々に重くしていきます。

 ○ 退職勧奨も進める場合

  ・懲戒処分と並行して、退職勧奨の手続きを進める事例もあります。

  ・弁明の機会の段階、懲戒処分の段階のいずれかで行います。

   指示違反への注意の段階で始めるのは、早すぎます。

タイプ3 不正をする社員

 ○ 誤った対応

  ・いきなり懲戒解雇は、ダメです。

  ・懲戒解雇は、普通解雇以上に立証のハードルが非常に高いです。

  ・「①事実の裏付け(証拠)」を欠いている。「②弁明の機会」を与えない。

   この2点をせずに懲戒解雇処分をすると、処分が無効とされる可能性が格段に上がります。

  ・不正事案では、特に「①事実の裏付け」がとても大事です。

  ・本人が否認(初めは認めていても後から否認することもある。)しても、会社は客観的に立証できるように準備しておきます。  

  ・不正事案は許せないという感情が働きがちであるが、会社は冷静でいること、冷静になること、感情的にならないことが、ベストな解決を導くために重要です。

 ○ 事実関係の調査

  ・いきなり本人に問いただすと、弁解を崩せないことがあります。

  ・また、証拠隠滅をされる可能性も上がります。

  ・まずは、伝票類の確保、関係者への確認など、証拠の収集を行います。

  ・被害金額や頻度も、不正の悪質さを裏付ける重要な資料です。

  ・会社の事務処理能力にあわせて、証拠の収集期間を決めます。

    (半年とか、1年とか)

  ・証拠が固まってくると、本人も認めざるを得なくなります。

  ・本人が事実を認めると、被害弁償がスムーズに進みやすくなります。

 ○ 普段の会社の管理体制が問われる。

  ・過去に同様の事案で、容認していたということがあると、今回のみ厳しい対応を行うことの理由がなくなってしまいます。

  ・特に、現金でのやり取りについて、日頃から内容の確認をしっかり行わずに、支出を認めていたというような、ルーズな現金管理を行っていると、会社が不正を認めていたという認定になりやすいです。

  ・システムや法人カードで管理がなされていれば、不正経理の立証が容易です。

 ○ 懲戒解雇、懲戒処分前の自宅待機

  ・懲戒解雇前に調査のために、「無給」での自宅待機にさせることは非常に難しいです。

  ・自宅待機を業務命令とし、「有給」とします。

  ・自宅待機を業務命令とするには、

    ①不正行為の再発や、証拠隠滅のおそれなど、緊急かつ合理的な理由が存在するか、又は、

    ②自宅待機を実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規程上の根拠が存在することを

   要します。

 ○ 刑事告訴

  ・悪質な事案は、懲戒処分の手続きと並行して、警察(検察)への告訴も進めます。

  ・告訴をする際には、内容を書面で整理し、証拠も提出します。

  ・関係者へ警察の調査が行われます。

   その際、取引先等に不正事案があったことを知られるリスクがあります。

 ○ 懲戒処分の公表

  ・公表内容は、懲戒処分があったという事実(最小限の情報)のみとします。

   氏名など本人の特定につながる情報は記載せず、推測なども記載しません。

  ・最小限を超えると、名誉棄損となります。

タイプ4 体調不良・休職をする社員

 ○ 誤った対応

  ・無断で出勤しなくなった社員に対して、電話連絡がとれないことを理由に、解雇(自然退職)をしてはなりません。

  ・メールやショートメッセージ、ファックス等、取り得る連絡手段のすべてを尽くす必要があります。

  ・緊急連絡先や身元保証人に連絡をとることも、手段の一つです。

  ・連絡がついたら、出勤命令を出すことを忘れない。出勤命令をしないと、休んでいることを黙認していたことになってしまいます。

  ・体調不良で業務ができないと言ってきたら、病院を受診し、診断書を提出するよう指示します。

  ・医師から就労制限があるとの話があったら、その内容を診断書に記載してもらうよう、依頼します。

  ・診断書の代金は、本人負担です。この場合は業務ではなく、本人のことだからです。

  ・診断書の提出がない場合には、出勤することは業務指示であり、拒否できないことを明示します。

    (タイプ2の業務指示を聞かない社員と、同様の対応をする。)

 ○ 休職発令に向けての実務対応

  ・「診断書」の提出を求めます。

  ・主治医へ面談を申し込みます。

   この際、本人の同意が必要となります。健康状態、病気の情報は、個人情報ですから。

  ・詐病が疑われても、医師の「診断書」があれば、裁判官は「診断書」の記載を前提に判断します。

  ・私傷病の原因を、事前に調査します。

   長時間労働、ハラスメントなどの可能性はないか。

 ○ 休職要件、発令時の運用の注意点

  ・休職は「発令」が要件となっており、欠勤が一定期間累積すると、自動的に休職となるものではありません。

  ・休職は「書面」で発令し、記録化します。

  ・長期の欠勤という事実のみで、会社は本人が休職に入ったと誤解していることがあります。

   この場合、発令がされていないため、休職となっていないので、休職期間満了による自然退職も適用がありません。(退職させられない。)

  ・就業規則に、一定期間の欠勤があることが休職発令の要件と記載されている場合があります。この場合、自然退職までは「欠勤期間+休職期間」が必要です。

 ○ 休職期間中の実務対応

  ・休職中の社員と、定期的に連絡をとるように心がけます。

   健康状態の確認や、規則正しい生活が送れているかを確認します。

  ・定期的に健康状態を把握することで、復職判断時の参考とします。

  ・診断書の有効期限(療養の期限)を切らさないように、心がけます。

   期限の1か月前には、新たな診断書を提出してもらいます。

タイプ4-2 復職する社員

 ○ 誤った初動対応

  ・主治医は自身の患者(本人)からしか、業務内容(負荷)の説明を受けていません。

  ・安全配慮義務の履行として、会社が主治医面談を行い、業務負荷を適切に説明する必要があります。

  ・休職規程には、延長条項が設けられていることもあります。

  ・自然退職の判断は、主治医面談を行った後にするなど、慎重にしないと退職無効の判断がされる可能性があります。

 ○ 休職満了時の対応

  ・休職期間の満了を迎える前に、会社は本人の休職事由が消滅したかどうかを検討しなければなりません。

  ・具体的に言うと、「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復した」と言えるかどうかです。

  ・休職事由が消滅(疾患が治る)した場合は、復職させます。

   休職事由が存属している場合は、就業規則に従って、自然退職又は解雇です。

  ・裁判所の考え方は、

    ・原則は、「休職以前の職務を、通常の程度に行える健康状態に復したかどうか」で判断します。

    ・例外として、配転命令により職種の変更等が可能な社員(正社員)の場合は、

    「当該社員が、従事可能、かつ、現実的に配転可能な業務があるかどうか」も検討したうえで、復職判定を行う必要があります。

    ・もう一つの例外として、比較的短時間(2~3か月)で休職以前の職務に復帰可能な場合は、

    「軽易な業務や就業上必要な措置をとる」などして復職を認めるべきです。

 ○ 復職に関する注意点

  ・復職基準を会社独自で厳格に定めることは、会社が解雇の基準を自由に創設できることに等しいので、やってはいけません。

  ・復職時に重要なのは、主治医の意見(解雇、自然退職前には必須)です。

  ・会社から主治医へ、業務内容を説明のうえ、主治医から①初診日、②現在の状態、③治療内容(服用薬等)、④フルタイム勤務の可否、⑤就労において配慮すべき点の情報提供を受けます。

  ・「試し勤務」時の賃金は、無給は止めるべきです。少なくとも最低賃金を支払いましょう。

  ・主治医に、就業上必要な措置を確認するメリットは、次のとおりです。

     ・主治医が述べた点に配慮することで、会社が過剰な業務をあえて負わせて、

     病気を再発させたなどと、後で主張される可能性に備えられます。

     ・主治医の意見に従って、会社は就労環境の配慮を行ったにもかかわらず、

     再発を繰り返した場合、会社としてはできることはすべて行ったとして、将来、

     やむを得ず退職してもらう際の根拠とできます。

  ・産業医に意見をもらう際は、

   「①本人と直接面談を、複数回行ってもらい、

    ②判断根拠となる具体的なエピソードを挙げてもらう」とよいです。

会社が日頃から注意しておくべきこと

 ○ 社員からの反撃

  ・一番多いのは、残業代請求を行ってくることです。

  ・名ばかり管理職(管理監督者性)、固定残業代の問題がないように、日頃から確認が必要です。

 ○ 具体的に会社がやっておくべきこと

  ・労働時間管理は適切ですか。

  ・管理監督者の範囲は適切ですか。

  ・定額残業代は適法ですか。

   (雇用契約書、賃金規程、給与明細の確認をします。)

  ・36協定の締結は、適切なされていますか。

  ・ハラスメントはありませんか。

 お客様から相談があった際には、今回のセミナーでの学びも活かして、よりよい提案ができたらと考えています。

 最後に、いつも思うことですが、質の高い話をお聴きし、納得感が得られますと、心が洗われ、とてもうれしい気持ちになります。よいセミナーでした。ありがとうございます。

 よろしければ、私のホームページ(愛知県知多・碧海・名古屋市南部の社会保険労務士 – おかど社会保険労務士事務所 (sr-hokado.jp) )もご覧ください。

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