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これからの就業規則はどのようなものになるか
2023/09/01
愛知県知多地域、西三河碧海地域、名古屋市南部地域を営業区域としています、中小企業応援社労士(特定社会保険労務士)の岡戸久敏と申します。(西三河・知多の特定社会保険労務士 – おかど社会保険労務士事務所 (sr-hokado.jp))
2023年8月24日、株式会社LegalOn Technologies主催の「これからの社労士のあり方を考えよう ~時代は就業規則作成業務からワークルールデザインへ~」というセミナーを受講しました。
講師は、株式会社エスパシオの下田直人氏でした。(株式会社エスパシオ (sr-espacio.jp))
セミナーの概要は、次のとおりです。
就業規則は、良質なひな形が充実しており、AI化により誰が作っても同じものができるようになってきました。誰が作っても同じということであれば、価格競争が起こります。では、価格競争に巻き込まれないようにするにはどうしたらよいか。
さて、人事労務環境には、3つの変化が起きています。
1つ目は、マネジメントスタイルが、人を管理するものから、信頼関係をベースにした「協働型」になっています。
2つ目は、雇用環境が、求人側(企業)有利から、「求職者(社員)有利」になっています。どうぞ、我が社で働いてくださいという変化です。
3つ目は、ワークスタイルが、集合・単一スタイルから、「分散・多様型」になっています。例えば、正規職員であっても、今は、従来の正規職員、地域限定型、短時間労働型と様々な雇用形態があります。
このように人事労務環境が変化したことで、マネジメントの考え方も変わらざるを得ません。
これまでは、行動があって結果が生じる。その結果を検証して行動を起こすというように、PDCAサイクルを回していくというものでした。
これからは、行動のベースとなる「感情」と「考え方」を見ていかなければなりません。
どれだけ気持ちが前向きなのですか。仕事にどんな意義を感じていますか。これらを検証して、そういう「感情」、「考え方」に応えられる環境を作っていってあげることが大切です。「心のマネジメント」です。これは、メンタル対策にもなります。
では、心のマネジメントとは、自分の存在感(やりがい・認められている感)が高く、不安感が低い状態にしてあげることです。適応感が高い状態です。
では、適応感を高める手法はどうすればいいのか。
「ソフト面」では、コミュニケーション研修、ハラスメント研修、コーチングスキルの習得、1on1ミーティング、日頃の上司と部下の関わり方があります。
「ハード面」では、人事評価制度や就業規則があります。ルールをしっかり作ってあることも大切です。
では、適応感に寄与する就業規則はどのようなものか。
ルールがお飾りではないことと、内容が「実用」できるものになっていることです。
では、「実用」できるとは、どういうことか。
「会社の現実」に即していること、「経営者の思想(哲学)」が入っていること、書かれていることの「意味(意図)を社員に伝えている」ことです。
ところで、働く人は、ルールがないと不安であると同時に、ルールが守られていないと不安になってきます。きちんとしたルールを作り守ることで、「不安感」をなくしていきます。例えば、退職の手続き、労働時間の決めは、不安感がなくなっていきます。あわせて、自らの「存在感」を高めるため、表彰制度の工夫やリフレッシュ制度の創設は、認められているという感情を持ちます。
こういったことから、就業規則への価値観を、法律で決まっている単なるルールから、適応感が高い組織に至るために「戦略的」に作り、そして使うというものへ変えていかなければなりません。
では、「戦略的」にとか、具体的にどういうことか。3つの観点、「内容(何を書くのか?)」、「作り方(どうやって作るのか?)」、「伝え方(何を、どうやって伝えるのか?)」で考えます。
まず、「内容」ですが、就業規則は3つのパートがあります。労基法の絶対的記載事項と相対的記載事項で考えるよりも、次のパートで整理した方が分かりやすいです。
1 働く条件 = 経営者が積極的に守るもの ← 従業員が不安に感じるもの
2 手続きの方法 = 従業員が積極的に守るもの ← 従業員が混乱してしまうもの
3 規範・あり方 = 従業音が積極的に守るもの ← 会社の方向性が不明瞭になってしまうもの
このうち、まず「働く条件」です。働く条件には、最低限のルール(労働時間、休日・休暇、定年、解雇)と、+αのルール(福利厚生的なもの、法律の基準以上のもの、従業員の成長を促すもの)があります。
働く条件の考え方は、そのルールは生産性にマイナスの影響を及ぼさないか、そのルールは使用者と従業員のパートナーシップを醸成するか、そのルールは我々(従業員)のことを考えてくれていると思えるか、という3つのチェックポイントがあります。
次に、「手続きの方法」です。有給休暇の取り方、退職の手続きなど、手続きの方法があいまいで、現場が困っているものはないか考えてみます。
そして、その方法は現実的か、当事者双方にとって良い方法か、他の従業員たちに良い方法か、考えてみる。その方法も、書き方で印象が異なってしまうので、書き方にも配慮が必要です。
次に、「規範・あり方」です。1つは「一般的に必要とされるもの、その業種で必要とされるもの、自社の文化や価値観の上で必要とされるもの」、もう一つは「職務専念に関する事項、秩序維持に関する事項、信用維持に関する事項、情報管理に関する事項、安全衛生に関する事項、ハラスメントに関する事項」、この2つの組み合わせです。
そのなかの服務規律は、一般的には「禁止事項」のみで完結していますが、自社の文化や価値観の上で必要とされるものは「促進事項」として書きたい。
では、よい就業規則は「どう作れば」いいのか。一つは、「会社の理念(経営者の思想・哲学)」を入れます。もう一つは、「みんな」で作ります。特に、服務規律は従業員と一緒に作った方がよいです。
まず、会社の理念(経営者の思想・哲学)を入れるから、考えてみます。
人の良心を引き出すには、性善説とか性悪説では考えない。人(経営者も従業員も)は、シチュエーションにより「良くも悪くもなる」という性弱説で考えたい。
従業員の立場になって、「従業員の視点」で、一人の従業員のストーリーで会社人生を考えます。
入社、結婚、出産、入院、病気、介護、更年期、こういった時、会社にどうしてもらいたいですか。この問いから、看取り休暇、リフレッシュ休暇、ペットの死亡休暇、若手従業員への自動車貸与といったルールを作った会社もあります。
次に、就業規則を「みんなで作る」です。服務規律のうち、促進事項は従業員と一緒に作ります。なぜなら、人は自らが作ったルールは守ろうとするからです。
具体的には、従業員からアンケートをとって、KJ法でとりまとめ、こなれた文章にしてルールにします。堅苦しい文章では、「意味」は伝わないので注意が必要です。
では、就業規則の「伝え方」を考えます。
従業員は、就業規則の「やる意味」が分かると、ポジティブに働きます。
少し、就業規則とは何かに立ち返ります。就業規則は、会社の理念(思想・哲学)を行動に移すためのルールです。それは、単なる文章ではなく、その奥には「意味」があります。でも、堅苦しい文章では「意味」は伝わりません。
そこで、意味を伝える解説書が必要となってきます。「従業員ハンドブック」を作り、意味を伝える解説をする必要があるのです。従業員は、分厚い規程集は読みません。
「従業員ハンドブック」とは、就業規則の背景にある意味を伝えたり、具体的な事例を示して、就業規則の理解促進に役立てるものです。そのためには、魂を込めて作っていきます。
ある会社は、会社説明会に「従業員ハンドブック」を使って、会社の理念などを説明する。その説明を聞いた学生はその会社に感銘して入社し、止めずに仕事を続けていく。従業員が辞めないので、毎年、計画的な採用ができています。
また、就業規則は、法令改正がなくとも、2、3年に1回見直した方がよいです。
就業規則の作成時には、経営者に対して、どういう会社にしていきたいのか、どういう働き方にしていくのかという、大きな視点で聞いてみます。そうすることで、経営者の価値観を引き出してあげます。経営者の気づきを引き出してあげる。これが、就業規則作成の成功のもとです。
ただ、人は意図せずに、「ウソ」をついてしまうものです。ちょっとひっかかるものがあったら、他の役員や人事担当者などにも聞いてみた方がよいです。
とても充実した内容のセミナーでした。
私は、下田直人先生の「新標準の就業規則」を読んで、その内容に感銘を受けており、お客様へ本に書いてあるような「就業規則」をご提案していくことにしています。
このセミナーを受講して理解が深まり、よりよい仕事ができると意を強くしました。
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