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愛知県労働協会主催のセミナー「裁判実務を活かした労働時間管理手法」を受講しました。

2023/06/20

 愛知県知多地域、西三河碧海地域、名古屋市南部地域を営業区域としています、特定社会保険労務士の岡戸久敏と申します。

 令和5年6月14日(水)、愛知県労働協会が主催するセミナー「裁判実務を活かした労働時間管理手法」をZoomで受講しました。

 講師は、杜若経営法律事務所所属の 樋口陽亮 弁護士でした。

 円満退職で辞めていく労働者は、会社に対して恨みを持っているわけではありませんから、退職後に、紛争が生じることは十中八九ないといってよいと思います。

 しかし、労働者が“会社から辞めさせられた”とか、“意に沿わない雇止めにあった”とか、“上司にいじめられた”とか思って、退職していくと、リスクがくすぶってちょっと危険な状態です。

 退職した労働者が経営者に恨みを持っていると、労働者として地位確認の請求や、未払い残業代の請求がされることがあります。経営者にとって大切な時間が、訴訟に取られてしまいます。また、裁判で労働者側の主張が認められますと、経営者は多額のお金を支払わなければならなくなります。

 今回のセミナーでは、労働時間管理を適切に行うことで、裁判の場で経営者の主張が認められるためのポイント(未払い残業代を支払わなくてもすむ。)について、詳細に説明がありました。

 参考資料

 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

セミナーの内容は、以下のとおりです。

第一に、

1 労働時間の認定は企業側に厳しい

 ○ 裁判所による労働時間の認定が企業側に厳しい現実

  ・使用者には、労働時間の適正な把握義務があります。

  ・労働時間の始点と終点で、労働の推認がされた場合には、使用者がそれへの反証をしないと、労働者の主張が認められ、使用者が負けてしまいます。

  ・タイムカードに記録された始業時刻から終業時刻まで、労働者は業務に従事していたとの事実上の推定が働きます。

  ・使用者が、タイムカードの客観的な記録とは異なる労働時間を反論する場合、使用者には、証拠に基づいた一段と高度の反証が求められます。

 ○ 実際の労働時間裁判で特に紛争化しやすい場面

  ・会社が労働時間と認識していない(取り扱っていない)時間に対して、労働者から労働時間にあたると主張される。(実労働時間性の問題)

               (所定始業前の在社時間、未承認の残業、勉強会の時間、食事会)

  ・裁判では、複数の労働時間記録が提出され、その信頼性が検討される。使用者の労働時間記録が否定され、逆に、労働者の提出記録が信用され、証拠として採用されることもあります。

       (記録の信用性の問題)

次に、

2 どのような行為を労働時間として認定するのか(実労働時間性)

 ○ 裁判所の実労働時間制性の考え方

  ・労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されている。

  ・労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるか、否かにより、客観的に決められます。

        (就業規則などの規定いかんにより、決定されるものではない。)

  ・所定「内」労働時間は労働義務を負うので、原則、労働時間にあたります。

  ・所定「外」労働時間は、原則、労働義務を負わないので、原則、労働時間にはあたりません。ただし、使用者の明示又は黙示の指示があれば、労働時間にあたります。明示又は黙示の指示にあたるかは、①業務遂行の義務付け、②場所的拘束性、③業務性、④その他の事情で判断されます。

 ○ 本来の業務行為そのものではない類型

  ・始業「前」の着替えは、原則、労働時間にあたりません。ただし、特定の場所で行うことが定められているときは、労働時間にあたります。

  ・始業「前」の朝礼、ミーティングは、自由参加の場合、労働時間にあたりません。ただし、強制参加又は欠席による不利益がある場合は、労働時間にあたります。

  ・所定労働時間「外」の研修、勉強会や講習は、労働時間にあたりません。ただし、強制参加又は欠席による不利益がある場合は、労働時間にあたります。

  ・所定労働時間「外」の会食や社内懇親会は、原則として、労働時間にあたりません。ただし、強制参加の度合いが極めて強い場合や、特命により宴会の準備を命じられている場合は、労働時間にあたります。

  ・呼出待機(自宅待機)は、原則として労働時間にはあたりません。

  ・待機時間、仮眠時間、不活動時間は、仕事がきたときには即時対応しなければならず、時間的場所的に拘束されているといった場合には、原則として、労働時間にあたります。

  ・所定労働時間「内」の不就労(業務時間中のタバコ休憩など)は、原則として、労働時間にあたります。所定労働時間「内」であるので、若干の勤務懈怠等の不就労があったとしても、指揮命令下から離脱しているとまでは評価されにくい。

 ○ 業務行為をしていたとしても指揮命令があるか疑義がある類型

  ・所定終業時刻「後」の居残り残業は、使用者からの明示又は黙示の指示(黙認を含む)があれば労働時間にあたります。裁判所は、所定労働時間に引き続いて残業をしていた場合には、残業と認める傾向が強い。

  ・所定始業時刻「前」の早出残業は、使用者からの明示又は黙示の指示(黙認を含む)があれば労働時間にあたります。ただし、裁判所は、労働者が入念に立証しないと労働を認めない傾向にあります。

  ・持ち帰り残業は、原則として労働時間にはあたりません。

第三に、

3 どのような記録から労働時間を認定するのか(労働時間の信用性)

 ○ 始点と終点による労働時間の推定

  ・タイムカードなど労働時間の裏付けとなる証拠資料に基づき、各労働日ごとに、それらの時間の始点と終点を特定し、その時間の存在を明らかにすることで労働時間を推認します。

 ○ 裁判所がどのような記録を重視しているかの考慮ポイント

  ① 記録と労働との結びつきの程度

  ② 記録の客観性

  ③ 使用者側での把握・管理の有無(補足要素)

  ④ 他の記録との整合性(補足要素)

 ○ 記録の客観性

  ・客観性が高い記録(機械的記録)

    ・タイムカード

    ・入退館記録

    ・PCログイン、ログオフ記録

    ・シフト表(もとシフト部分)

    ・電子メール送信時刻

    ・タコグラフ

    ・レジ締め時刻

  ・客観性が低い記録(手書き等)

    ・出勤簿

    ・日報

    ・シフト表(修正記載部分

    ・手帳

第四に、

4 裁判実務を踏まえた労働時間管理方法

 ○ 普段から、次の①、②の視点を意識した労働時間管理を取り入れる

  ① 労働と取り扱わない行為について、後で、実労働時間と認定されないための工夫

  ② 証拠価値の高い記録を用いての労働時間管理

 ○ 実労働時間と認定されないための工夫

  ・裁判所は、争点となる行為や時間帯ごとに、基準や判断要素を使い分けています。

  ・問題となりそうな時間帯の類型ごとに、裁判での判断要素のポイントを理解して、実労働時間性の肯定要素をなくし、否定要素に沿った労務管理をします。

  ・上記2のそれぞれについて、点検します。(詳細は略)

  ・「ダラダラ仕事をしていた」時間は、労働時間性を否定できるか。

   答えは、実労働時間性を否定するのは難しい。残業代請求の労働時間の算定において、労務提供の労働の量や質は問題とされません。あくまで労務提供の量・質は、教育指導の問題として対応する必要があります。

○ 証拠価値の高い記録を用いての労働時間管理

 ・使用者が労働時間把握を怠っている場合、労働者の証拠(労働との結びつきが弱い証拠や、客観性が低い証拠であっても)が採用されるリスクがあります。

 ・使用者は、正確に労働時間を把握するには、原則

    ① 労働との結びつきが強く

    ② 客観的な方法

  によりカウントする必要があります。

 ・複数の客観的記録により、労働時間を把握することも有効です。

 ・客観的記録による把握とともに、残業許可制を併用して、残業を抑制していきます。

○ 居残り残業に対する労務管理

 ・労働者が居残り残業を主張してきたとき、裁判所は使用者に対して厳しく判断します。

 ・使用者の労務管理方法としては、普段から残業許可制を導入・運用し、かつ、明示又は黙示の指示がないように対応することが考えられます。

 ・残業許可制のポイントは、次のとおりです。

    ・残業許可制が存在し、周知されていた。(就業規則の記載など)

    ・残業許可制の具体的な仕組みがあった。(勤怠システム、メール、書面など)

    ・残業許可制が厳格に運用されていた。(指導書、懲戒処分など)

 ・黙示の指示(黙認を含む)があったといわれない対応のポイントは、次のとおりです。

    ・業務量や期限が、残業を余儀なくされるほど多くない。

    ・申告に上限時間が設けられていたり、労働者に対して実績どおりに申告しないようにといった使用者からの働きかけがない。

    ・残業をさせないための配慮をしていた。

    ・申告と記録上の在社時間との間の乖離を確認し、無許可残業を繰り返すような労働者に対しては注意指導をしていた。

第五と第六は、省略です。

5 テレワークと労働時間管理

  略

  参考資料 

  テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

6 業種別の労働時間管理~運送業~

  略

  参考資料

  トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント(トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 お客様から相談があった際には、今回のセミナーでの学びも活かして、よりよい提案ができたらと考えています。

 最後に、いつも思うことですが、質の高い話をお聴きし、納得感が得られますと、心が洗われ、とてもうれしい気持ちになります。よいセミナーでした。ありがとうございます。

 よろしければ、私のホームページ(愛知県知多・碧海・名古屋市南部の社会保険労務士 – おかど社会保険労務士事務所 (sr-hokado.jp) )もご覧ください。

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